薬丸岳「死命」

「ブレイクニュース」に続いての薬丸岳作品、「死命」読了。

登場人物は、子供時代に何らかのトラウマを抱え、その影響で連続殺人を実行する33歳の榊信一と彼の幼馴染で、お互いに愛しながら結婚しなかった山口澄乃、榊が犯した殺人事件を追いかける執念の刑事、蒼井と部下の矢部。

榊はデイトレーダーとして成功し、若くして富を手にするが、体調が悪く余命わずかの癌と診断され、同じく蒼井刑事も癌で余命わずか。最後に明かされるが、榊は子供時代に母親から性的虐待を受け、そのトラウマから澄乃を愛しながら、一方では女性を扼殺することで精神的な充実感を感じてしまう凶悪犯になってしまう。そんな榊を、澄乃からの告白電話を受けて犯人と特定し、新潟まで追いかけていく蒼井刑事もまた余命を犯人逮捕で締めくくる執念を描くのだが、400ページの大作にする内容かは大いに疑問。

捜査一課のベテラン刑事と、若い所轄の刑事のコンビの描写も、極めてありふれたものであり、榊の子供を妊娠して、一人で育てていこうと決意する澄乃、そして澄乃の死の描写もありふれたもの。したがってこの小説の主題がすべてありふれたものであるような感覚を持ってしまうというのが私の感想でありました。薬丸作品としては、中の下の部類に入るのではないでしょうか。

今日はこの辺で。