薬丸岳「ラストナイト」

薬丸岳作品の集中的読書中ですが、昨日読み終わった「死命」については、中の下の評価で、どちらかというと面白くないと書いたのですが、本日一日で読了した「ラストナイト」は見事な作品。その面白さと感動的な展開から、一刻も早くラストナイトがどんな展開になるかを確認したくて、どんどん読み進めて、最後は涙が止まらないほどに感動しました。

本作の主人公は片桐達夫という59歳の男。彼と関わりを持った5人の人物との交わりを描きながら、片桐の復讐劇を描く。

菊池正弘の章は、彼が娘夫婦と居酒屋を営むが、そこに片桐が宮城刑務所を出所して現れる。片桐は32年前に菊池の居酒屋で傷害事件を起こし、その後は刑を重ねてほとんどを刑務所で過ごす身。そんな片桐も菊池だけは暖かに迎えてきた。しかし、世間の目は厳しく、菊池の店でも陰口をたたかれている始末。菊池は片桐に、もう店に来ないでくれと言ってしまうが、片桐がこうなったのは自分にも責任があるため、絶交宣言を後悔してしまう。片桐が決して凶悪な人間ではないことが、菊池の章で語られる。

中村尚の章は、5年前の強盗事件で片桐を弁護した若い中村弁護士の話。片桐は出所して中村を訪ね5年前のお礼を言い、「また弁護を頼む」といったニュアンスの言葉を残して別れる。中村はこの言葉が気にかかり、片桐がまた犯罪を起こすのではないかと、菊池の店を尋ね、かつて片桐が結婚した陽子さんと娘のひかりさんの居場所を突き止め、陽子さんの実家のある浜松を尋ねて、娘のひかりに、片桐に会ってほしいと懇願する。

松田ひかりの章は、片桐の娘である松田ひかりが、中村から説得され実父の片桐に会い、父親との縁切りをする。彼女は、幼少時に母親の陽子が自殺未遂でいまだに植物状態、そしてその責任がすべて自分たちを棄てた片桐にあることを信じていた。

森口絢子の章は、片桐の妻陽子を麻薬漬けにした飯田というやくざと同棲している絢子に片桐が接触し、飯田をおびき寄せる段取りを行う。絢子は最初片桐を不審に思うが、話すうちに、片桐は悪人ではないのではないかと気づく。

荒木誠二の章は、5年前のドラックストアの強盗事件で身代わりになってくれた片桐を追いかける荒木の話。荒木は、なぜあの時片桐は自分を助けたのか、なぜ刑務所を渡り歩くように罪を重ねているのかを疑問に思い、その真相に行きつき、片桐の復讐劇を何とか止めようと、片桐を追跡するが、ラストナイトは片桐の死に直面することになる。

エピローグでは、松田ひかりが荒木に会って、片桐の事件の真相をやがて知ることになることを予測させて終了。

章立てが巧みで、時間的な齟齬もなく、非常によくできた作品であり、感動的なラストを迎える見事な小説でありました。

今日はこの辺で。