桜木紫乃「星々たち」

桜木紫乃の小説はストーリー展開が巧みで、引き込まれます。「星々たち」も巧みな展開で短編がつづられる連作。
九つの短編で構成されますが、全ての話に登場するのが「塚本千春」という女性。しかし、千春が主役となって語られる話は一つもありません。そこが非常に巧みにできていて、おもしろい小説です。

最初の「ひとりワルツ」に登場する千春は13歳の中学1年生。母親の咲子は奔放な女で、いまだに男を追いかけるような生活。千春を親に預けて道東でスナック勤めているが、久しぶりに千春と会ってその成長に驚く・・・。主役は母親の咲子。

「渚のひと」では千春は16歳の高校生。近所に住む育子のところで内職をしているが、医大生の育子の息子の子供を宿してしまう話。ここの主役は育子さん。

「隠れ家」は、薄野のストリップ劇場で踊る麗香が兄の出所を待つ女で主役。その兄が刑務所を出たのを機に、踊り子を辞め、その麗香の後に踊り子として入ってくるのが千春。

「月見坂」は、裁判所に勤める41歳の晴彦が、なぜかスーパーに勤める千春と結婚する話。ここでの主役は晴彦。

トリコロール」は、小さな港町で所帯を持って25年。桐子は夫とふたり、理髪店を営んでいる。桐子の一人息子が札幌で結婚したのが千春。しかし千春は子供を置いて出ていってしまい、桐子が子供を引き取ることに。ここでの主役は桐子。そして子供はやや子。やや子の父親も最後の話に出てきます。

「逃げてきました」は、市役所勤務のかたわら、詩作をつづけてきた巴五郎が主役。彼が主宰する詩作教室に、塚本千春という30代の女が入会してきて、詩の才能を出します。

「冬向日葵」は、罪を犯し、逃げ続けて何年にもなる能登忠治が主役。道北の小さな一杯飲み屋の女将、咲子と暮らして8年が過ぎた。咲子は最初に出てきた千春の母親で、死期が近い女。咲子に千春を合わせようと忠治が小樽に出向くのですが、千春にあったものの言い出せず。そのあと千春は交通事故にあってしまいます。

「案山子」の主役は、東京から北海道・十勝に移住、独りで野中の一軒家に暮らす元編集者・河野保徳。彼の前に現れるのが千春で、彼は千春からその数奇な生涯を聞き出し小説を書くことに。そのタイトルが「星々たち」。

最後の「やや子」は、桐子に育てられた子供が大きくなり、図書館司書の田上やや子となっていました。彼女が最後の主役を務めます。

巧みに主人公を配置して、千春の細かな生活やいきさつは省かれますが、話の筋から、いかに数奇な生涯をたどったかがわかります。
今日はこの辺で。