奥田英朗「オリンピックの身代金」

奥田英朗「オリンピックの身代金」読了。東京オリンピック当時の世相を移しつつ、サスペンスも盛り上げる会心作。
東大大学院に籍を置く島崎国男が、オリンピックを人質に国家を脅かす話ですが、読むに従い、だんだん島崎に感情移入してきました。そして、最後は何とか8,000万円をせしめて逃げ延びてほしい、と島崎の味方になっていました。
この作品の主人公は最初から最後まで島崎。最初に出てきた須賀忠がもっと大きな役目を果たすのと思いきや、単なる親思いの坊ちゃんでしかなく、そういう意味で、島崎の周りの人間は、スリの親父以外は付けたしの役目。
この作品の唯一の欠点は、ちょっと長すぎること。この半分の分量でも主人公に感情移入できるのではないかと思いました。
それにしても、1964年、昭和39年は戦後20年ほどの時期ですが、日本中が右肩上がりの高度成長期。その中で、やっぱり地方は貧しい時期でした。それでも未だ成長の夢がある時代でした。そして今の日本。格差社会が広がり、都会と地方の格差も広がる一方。しかも経済はデフレで右肩下がり。将来への夢が消え、不安が広がるばかり。
奥田は当時の世相を描きつつ、今の時代のむなしさを描きたかったのではないでしょうか。
今日はこの辺で。