江上剛「霞ヶ関中央合同庁舎第四号館 金融庁物語」

銀行出身作家江上剛の表題作読了。長々とした小説名ですが、話の中身は数年前にあったUFJ銀行に対する金融庁の調査に対して、UFJ銀行が検査書類を隠して検査妨害した顛末を、ノンフィクション風に描いた小説です。実名を使うのまづいので、銀行名や企業名はややこしい名称をつけていますが、実在の名称にすぐに置き換えられるので、読むときは読み替えて読みました。
「大東五輪銀行」なんていうつまらない名称を無理やりつけるので、そのまま読んでいたらややこしくてどうしようもありませんから。
UFJ銀行の金融庁検査妨害事件は、その後刑事告発され、小説の中の倉敷専務に相当する方など、数名が逮捕され、有罪判決を受けています。それだけ悪質だったということですが、一方では、この金融庁の検査は、当時の小泉-竹中の金融改革の犠牲になったとの見方もあります。
この検査をきっかけにしてUFJ銀行は決算修正を余儀なくされ、大幅赤字決算に転落。結果的に東京三菱銀行に吸収合併されました。しかし、合併後の収益力はむしろ旧UFJ銀行のほうがあるようにも聞いています。
この経済小説の論点は、貸出先企業の経営状況をどう見るかにかかっています。要注意先か?、破綻懸念先か?これを判断するのはきわめて難しいところです。見解の相違でどうにでも解釈され得ることですから。したがって、この小説の中の金融庁調査官が正義であり、銀行側は不正義とすぐに結論付けるのは危険かもしれません。
それにしても、吸収合併された側の会社の人間の悲哀がよく描かれていました。
今日はこの辺で。