熊谷達也「邂逅の森」読了

熊谷達也直木賞受賞作「邂逅の森」を読み終えました。マタギものと言うことで、単なる狩猟の話と思っていたため、手をつけるのが遅くなってしまいましたが、いざ読んでみたら、予想とは全く違う内容で、魅了されました。
この小説は、東北地方の習俗をベースに、マタギを生業とする主人公を中心とした人間ドラマ、特に男女の人間ドラマでした。マタギに女は出てこないだろうと思っていたのが間違いでした。それも、東北と言う言葉で連想する閉鎖的な男女関係ではなく、どちらかと言えば開放的であっけらかんとした性が描かれているのには感心しました。確かに東北地方には夜這いの習慣が本当にあり、したがって女性もセックスに関しては貞操を守ると言う感覚ではなく、どちらかと言えばあけっぴろげな考えを持っていたことが想像されます。この小説に出てくる文絵とりくの二人も、性に対して罪悪感を持たず、男も女に貞操を求めるような感じはありません。こうした東北の性に対する習俗を題材にして、主人公の富治とりくの愛情は読む者を引きつけます。文絵に比べ器量はよくないりくが、次第に私の頭の中で美人になっていくのです。最後に富治が一人で熊と戦い、足を自分で切断するほどの大怪我をしますが、りくを想い、必死に村を目指します。そこで小説は終わりますが、りくは足が非自由になった富治を大切にしていくことが予想できます。そういった意味でハッピーエンドの小説ではないかと感じました。
今日はこの辺で。