東野圭吾「悪意」を読む

直木賞受賞で、俄然東野圭吾作品が売れているようです。私としては、ファンとして非常に嬉しいのと、受賞後第一作が楽しみな今日この頃です。彼の作品は50数冊あるようですが、私はまだまだ未読本が多く、完全読破を目指しています。
今日図書館で、今月号のオール読み物を手に取り、直木賞選考委員の選評を読みました。半分以上の委員が、「容疑者Xの献身」を圧倒的に支持していました。直木賞でこれだけ誉め言葉が多いのは珍しいくらいでしょう。しかしその中で、渡辺淳一だけはどちらかというとけなしていました。彼が言うには「作品に人間性が感じられない」とのこと。私は渡辺作品は「ひとひらの雪」ぐらいしか読んでいないので確かなことは言えませんが、彼の描く人間劇は不倫もの、それも男女の体の結びつきを強く描いているだけで、たいそうなものではありません。「容疑者Xの献身」はありえないような男の純愛を描いていますが、ありえないからこそ小説になるのであって、選評としては納得いきません。なお、いつも生意気なことを描いている林真理子も、今回だけは東野作品をべた誉めに書いていました。東野の力量が自分より数段上だということを分かっているからでしょう。
さて、私の受賞後第一作の読書は「悪意」。もう10年前の作品ですが、この作品に「容疑者・・・」の原点があったのではないかと思いました。犯人を追い詰めるのは湯川教授ではなくて加賀刑事ですが、アリバイ設定やその謎解きなどに共通点があるような感覚を持ちました。「悪意」の犯人と被害者はかつての同級生、「容疑者・・・」の犯人と湯川も大学時代の同級生。そんなシチュエーションもなんとなく似ています。最後の「悪意を抱いたままこの世を去ることは出来ない」ほどの悪意があることの悲しさ、恐ろしさについて考えさせる小説でありました。
今日はこの辺で。