魚住昭「官僚とメディア」

共同通信記者から現在はフリージャーナリストとして活躍する魚住昭著「官僚とメディア」読了。書名とは異なり、ことさら官僚とメディアの関係を記述しているわけではなく、どちらかと言えば権力とメディアの関係を中心に記した本、

最初にあるのは、安倍前首相の地元、下関市長選に絡む安倍事務所と反社勢力との関係。安倍事務所に火炎瓶が投げ込まれた事件を発端に、安倍晋三に関するスキャンダルが発覚し、それを取材した魚住ほかの共同通信スタッフが記事を書き上げたにもかかわらず、上からストップした事件を取り上げています。安倍晋三というと、どうしても最近のモリカケ桜などの、政権の私物化がやり玉にあがるのですが、反射勢力との繋がりについては、あまり話題にならないが、安倍晋太郎以来の地元反射勢力との付き合いがあることには、その体質の恐ろしさを改めて感じます。配信にストップがかかった背景に、共同通信平壌支局開設問題が絡んでいたとのこと、この平壌支局開設については、どうせ報道統制に厳しい北朝鮮では、検閲が厳しく、まともな記事が書けるはずがない、逆に提灯記事ばかりになるという弊害も語られ、なるほどと思う次第。

安倍にかかわる話題として、NHK番組への干渉問題は一時話題になりました。中川昭一安倍晋三が、NHKが作成した「問われる戦時性暴力」の情報を事前につかみ、変更しているとして制作幹部を呼び出し、改編させた事件。これを突っぱねることができなかったNHKの弱腰態度も問題になりましたが、NHKに対してはその後も自民党政権からの圧力がたびたびかかっています。

「官僚とメディア」に関して本書で大きく取り上げているのが、「耐震偽装事件」。姉歯事件とも言いますが、耐震基準を満たさない構造計算を行って、一時建築業界にパニックが巻き起こりました。この事件では、姉歯をはじめゼネコンの木村建設デベロッパーのヒューザー、民間建築確認機関のイーホームズの関係者が根こそぎ逮捕されました。耐震偽装設計をしたのは姉歯の単独犯行だったのですが、他の三社はいわゆる別件逮捕。こうした誤った司法を判断に導いたのは国交省の役人たち。自分たちに監視機能はあっちにおいて、すべて民間関係者が悪いという方向でメディアに情報を流し、メディアはそれを何ら検証もせずに垂れ流す構図は、日本の記者クラブ制度の弊害を如実に示しました。

検察の暴走として語られるのがライブドア村上ファンド事件。この事件も特捜検察が作り上げた事件で、リーク情報がメディアに流れ、時の人でもあったホリエモンこと堀江貴文村上世彰を極悪人に仕立て上げた事件。ホリエモンニッポン放送株の買い占め=フジテレビ支配を狙って仕掛けた株買い占めに、おそらくは大手メディアが危機感を抱いたのか、特捜部のお出ましとなり、これまた粉飾決算などの別件逮捕で刑務所に送り込んだ事件だが、金丸信事件で地に落ちた検察の威信を回復するためにも必要なでっち上げ事件だった。

最後に述べられるのが最高裁電通共同通信の悪だくみ。電通については、コロナ対策での持続化給付金事業で今現在やり玉に挙がっていますが、裁判員裁判導入時のPRキャンペーンでは、最高裁とがっちり組んでいたという話。最高裁は法の番人で、民法・商法上での契約の重要さは十分承知しているはず。しかし、灯台下暗しで、実務経験が全くないので、自分が当事者になった時の振る舞いを知らないのでしょう。裁判官が世間知らずと言われる所以がここにある。入札行為は談合丸出しの結果、難なく電通に。契約書は後付けで作って罪悪感なし。それに共同通信も一枚絡んでいる構図はお笑いでしかありません。

最高裁が談合した、あるいは契約せずに仕事をやらせたと言って、庶民が訴えたところで、裁くのは裁判所。裁判所の親玉が張本人の裁判では、庶民は勝てるはずがありません。

メディアの劣化が叫ばれる昨今、権力の監視機能を果たすべき真の役割が損なわれている現実が恐ろしい限りです。

今日はこの辺で。