山崎豊子「沈まぬ太陽」

封切中の同盟映画の原作本、山崎豊子の「沈まぬ太陽」全五巻をやっと読み終えました。
山崎豊子は「国民的作家」などの敬称で、大作家としての地位を確立しているようですが、盗作などの嫌疑も掛けられたことのある作家。私は「白い巨頭」も「大地の子」も読んでいませんが、この「沈まぬ太陽」を読む限りは、そんなに大作家なの?と疑問が沸きます。そんなに優れた表現力や発想力があるとは思えないのですが。
さて、この作品は、国民航空=日本航空と誰もが一目瞭然にわかる話。その日本航空の体質を赤裸々に描いているのですが、その赤裸々さが、まさに誹謗中傷の何物でもないようなえげつなさ。
小説に登場する歴代の社長等の役員、会社に組する新労働組合関係者、更には時の総理大臣、官房長官運輸大臣が、実名に近い形で登場してきて、犯罪者まがいの行動を行っています。
逆に恩地という主人公と、御巣鷹山事故以後に会長に就任する国見は聖人君子の扱い。これでは、実名に近い形で登場して悪逆非道の限りを尽くすように描かれた人が名誉毀損で訴訟を起こしたくなるでしょう。
著者は最後で、関係者や資料を克明に取材し、それを小説=フィクションに仕立てるという初めての手法をとった、評価は第三者にお任せする、と言って責任回避のようなことを言っている。それで許されるものなのか?誰がどう読んでも、これはノンフィクション的要素の方が大きい作品ではないか。
恩地側の取材のみに偏り、経営側や労使協調路線をとった新労働組合側の言い分は捨て去っている。
これでは公正さを欠いているのではないか。小説を面白くするためには、勧善懲悪の方が分かりやすく、受けるのでしょうが、あまりにも偏見を持った描き方は、作品自体を軽くしていると言わざるを得ません。くれぐれも今の日航の経営危機が、この小説に描かれた犯罪的な体質を背景にしているなどとは誤解しないようにされたいものです。
今日はこの辺で。