吉田修一「国宝 上 青春篇」

吉田修一朝日新聞に連載した小説「国宝」上巻青春篇読了。

九州長崎のやくざ一家に生まれた喜久雄が、地元やくざの抗争で殺された父親の仇を取り損ね、大阪に出て歌舞伎の名跡、花井半二郎の弟子となり、半二郎の実施の俊一よりも才能があるとして、半二郎を受け継ぐ歌舞伎役者となり、前途洋々と見えた役者人生ながら、先代の突然の病気と死で、その後は歌舞伎界の大御所たちに冷遇され、苦節の時代を過ごすまでを描く青春篇。吉田修一は「パークライフ」で芥川賞を獲得するものの、その後は主に大衆文学中心の作品を発表しているが、本作は「悪人」以来の秀作と言われるが、エンタメとして、非常に楽しめる作品。芸能界とやくざ社会の深い結びつきを描き、たまにスケープゴード的にやくざ社会との関係が暴露され、芸能界から去る人も実際にはいるものの、やはり両者は相通じる関係を感じさせる描写である。これが悪いか否かは、何とも言えないのが、実はこの社会の常識なのでは、とも思い知らされる。とにかく登場人物が多彩な顔ぶれで、後編に向けては、一度出奔して姿を消していた俊一が10年ぶりに姿を現し、「国宝」の意味をこれから解いていく後編が楽しみである。