水沢渓「冤罪の構図」

初めて読む作家、水沢渓の「冤罪の構図~キャリアの仕組む罠」読了。

水沢渓さんは、山一證券に入社し、その後作家に転じてノンフィクションや経済小説を書いていた方で、すでに亡くなっています。読むきっかけは、「冤罪」と言うタイトルを見つけたからだけで、全く事前の予備知識なく読んだ作品ながら、いろいろと教えていただきました。

メインストーリーとしては、「日本酒と税金」に関係する人間たちの織り成す物語。業界の古いしきたりを破ってきた代表として、運送業界における「ヤマト運輸」が有名ですが、「日本酒」もまた、そこに群がる多様な人々、すなわち大小さまざまな造り酒屋、卸業者、小売業者、そして税務署。かつて日本酒がもっと売れていた時代の酒税のウェートは相当高く、昭和初期までは国税収入で第一位の地位にあり、戦後も高い位置にありました。そんな背景から、種類の管理官庁は国税局であり、税務署の役人が業界に幅を利かせていたようです。

この小説は、会社や人の実名もたくさん出てきて、どこまでがフィクションで、どこがノンフィクションなのかわからないところがありますが、いずれにせよ、税務署利権にがんじがらめであった酒の製造から販売に至るまでの規制を破ろうとした勇気ある何人かの登場人物を、それぞれの立場で描いていきます。東里酒造の古田良造さんは、最初の勇気ある主人公で、何者かに殺害されてしまいます。この犯人探しの小説にはなっていないのが、サスペンスものとは違うところ。バイプレーヤーとして小林一三さん、穂積忠彦さん、そして最後の主役が荻島響子さんと梅津智加さん。対する悪代官役は国税局のキャリア官僚、それを操る政治家、警察・検察、県庁の役人等々。

「規制のあるところに利権あり」を描いた面白い作品でした。

ちなみに、かつてあった日本酒の等級制。このからくりを、この小説の中で初めて知りました。等級制は1992年まで続きましたが、特級・1級は税務署に評価を申請した酒だけが受けたものであり、お金もかかることから大手酒造メーカーが主に申請して等級を得ていたもの。それ以外、すなわち評価申請していない酒はすべて2級。したがって、特級だからうまい酒とは言えないことです。これがだんだん知れ渡り、等級制も廃止となったのですが、昔は「特級酒は高級の証拠でうまい」が信じられていたということ。知らないということは恐ろしいことです。騙されて高いものを買わされていたのです。

今でもこうしたおかしな規制が、世の中にはあふれているような気がしますので、ご注意ください。典型はデパートで買う下着とスーパーで買う下着。同じものでも値段は違うはずです。でもこれは規制ではありませんが。

今日はこの辺で。