「ワタミ過労自殺」

東京新聞記者著「ワタミ過労自殺」読了。働き方改革法案のきっかけの一つともなったブラック企業問題。入社2か月で自死したワタミ社員、森美菜さんの過労死事件を追ったドキュメントです。
渡辺美樹氏が創業して急成長した居酒屋チェーンのワタミに4月に入社した美菜さんが、たった2か月で過労死した事件は、当初は労基署も労災とは認めなかったのですが、再請求で認められた案件。労災認定まで3年近くかかったことも、労基署認定の問題点ですが、少なくとも認定されたことは社会全体の長時間労働是正の動きを加速させるためにも朗報でした。
さて、本の最後に美菜さんの勤務実態表が添付されていますが、深夜営業する居酒屋チェーンの過酷さが一目瞭然です。午後3時に出勤して(4時が始業時間ですが、実態として3時でなければ間に合わない)翌日午前3時(または5時)まで勤務、途中休憩もまともに取れない、更には3時で終わっても電車が走っておらず留め置き。さらに驚いたのは、渡辺氏の書籍を有料で買わされ、勤務時間外にそのレポートまで書かされる、休日に半強制でボランティアに駆り出される、その制服も有料で買わされる、カンボジアに学校を作る渡辺氏の夢のために強制募金させられる、などなど。渡辺氏の企業理念を宗教のごとく学ばされて、ただただ服従させる意図が見え隠れします。
美菜さんのご両親は、ワタミのこうした体質を変えようと裁判に訴え、当初は法廷闘争で自社の主張を訴えていこうとしたワタミ。この裁判の結果は、この本が出版された後になりますが、結果的に途中で急転直下、ワタミは大幅に譲歩し、和解に応じることになります。
その結果、就業時間の管理の徹底、ボランティアやレポート作成時間も勤務時間とする、それらは過去にさかのぼって、辞めた社員にまで遡及して支払うなど、大幅な譲歩でした。
この譲歩の背景には、ワタミグループの急激な収支の悪化や渡辺氏が参議院議員になったことも挙げられます。
今回の働き方改革で、4月から罰則付きの時間外労働の上限規制が始まり、ワタミのような上場企業の飲食業には経過措置がなく、チェーンの居酒屋チェーンなどは極めて厳しい状況でしょうが、果たして守られるのか、不安があります。
私もたまにチェーンの居酒屋さんでグループでのみに行くことがあるのですが、なかなか頼んだものが出てこないときは催促したことがあるのですが、この本を読んで、そこで働く方たちの労働実態を見ると、あまり催促するのも考え物だなあと思った次第。
直近では電通の親友社員の自殺事件が大きな社会問題となりましたが、電通のような会社であれば給料も高いし、昇給も相当なので未来がありますが、こうした居酒屋チェーンでは、例え店長になったとしても給料はそんなに高くなく、ただただ責任が増えるだけの環境になり、明るい未来がありません。3年以内の離職率が40%以上という業界では、採用しても使い捨てになる可能性が非常に高いと言わざるを得ません。これから就職を考える方には、是非ともその会社や店舗の実態を把握して、慎重に臨んでいただければと思います。
今日はこの辺で。