真保裕一「トライアル」

真保裕一「トライアル」読了。競輪、競艇オートレース、競馬をテーマに4つの短編が収録された作品。競輪、競艇オートレースが、それぞれ人間がまたがる機械的な要素のある乗り物であることから、それを掘り下げている点が興味深い作品。私は、てっきり与えられた乗り物に乗ってレースをするのと思っていましたが、エンジンだったりタイヤだったりと、選手がそれぞれ手入れをして勝負に挑むところに勝負の分かれ目があることに初めて気づかされました。
競輪を扱った「逆風」は、別れて長いことあっていない兄が、競輪の八百長をそれとなく弟の競輪選手に持ち掛けるが、弟はきっぱり断る。兄はやくざ者に殴られてしまうが、そこには弟を思う兄の心があった。
競艇を扱った「午後の引き波」は、歳の離れた夫婦ながら、同じ競艇の選手として、妻は上り調子の選手、夫は先の見えてきた中年選手。妻は夫の行動に疑問を持ち、夫の行動を監視するのだが。ここにも夫婦愛が見て取れます。
オートレースを扱った「最終確定」は、まだ若い選手が父親の病気が悪化したとの電話連絡を受け、競技を辞退して帰郷するものの、何者かの虚偽の連絡だったことから、誰が犯人なのかを疑う者の、最終的には父親との確執が原因として最終確定する話。
最後の競馬を題材にした「流れ星の夢」が、4編の中では秀逸と思われる作品。地方競馬の厩舎に所属する若手騎手が、新しく入った厩務員の馬を世話する巧みな技術に関心を持ち、その素性を知ろうとするが、真実を語らないまま去ってしまった中年のその厩務員は実はその騎手の・・・・。はっきりは書かれていないが、読者の想像を掻き立てるラスト。
ギャンブル競技ではありますが、奥深い技術が必要なプロスポーツであることを実感しました。
今日はこの辺で。