浅田次郎「月島慕情」

久しぶりに浅田節を堪能。表題作含め全7編の短編集ですが、どれ一つとっても浅田次郎らしい情感がこもった作品ばかり。まさに百点満点の読み応えでした。
「月島慕情」12歳で吉原に売られてきたミノは器量よしで、置屋のNO.1に。でも歳は30歳を過ぎ、旦那に引き取られることも無いと思いきや、恋焦がれた男に引き取られることに。でもその男は実は・・・。
気風のいいミノ姐さんに完敗でした。
「供物」。離婚経験のある初江は、今はいい旦那さんに恵まれて幸せな生活。ある日突然かつて分かれた亭主が死んだとの知らせがありワインを買って焼香に。そしてそこには離れ離れになった息子が。親子の情感がなんとはいえない雰囲気を醸し出していました。
「雪鰻」。7編のうちで最高かもしれない秀作。今は自衛隊の将軍になっている三田村陸相が持参した鰻重。決して鰻を食べない将軍の太平洋戦争時代の体験話。連戦連勝の大本営発表の裏側での悲惨な戦場を経験した三田村の回想録は、決して作り話には思えません。
インセント」。大学紛争華やかな頃の貧乏学生と、その学生の住むアパートの隣の部屋に引っ越してきた美人母と幼い娘の出会い。ゴキブリをペット代わりに繁殖させて飼っているというのは、いかにも気持ちの悪い趣味ではありました。
「冬の星座」。無くなった祖母の通夜に駆けつけた大学病院の女先生。その通夜に、なくなった祖母とかかわりがあった人たちが訪れて、祖母の過去がわかっていく・・・。世の中にはこんなにもすごい人がいるのか?うれしくなり、涙も止まりませんでした。
「シューシャインボーイ」は「冬の星座」の男版。戦争孤児を引き取った靴磨きの男が、今でも新宿で靴磨きをしている。そこに通い続ける、成功した孤児。世の中にこんな欲の無い人間がいるのだろうか?でも感動を与えてくれる話です。
「めぐりあい」。これまた泣かせる話。病気で視力を失い、今は温泉でマッサージをしている女性。かつては医学生と恋仲になったものの、自ら身を引いた過去を持つ。あるとき夜中にマッサージの注文があり温泉旅館へ。そこでのお客がもしかしたらかつての恋人?結局そうではなかったのですが、回想でかつての恋人のやさしさが浮き彫りになります。
この小説に出てくる人間には悪人がいません。「月島慕情」の人買いさえ、最後はミノの手助けもします。こういう小説はすばらしい。浅田の代表作にもなるのではないでしょうか。
今日はこの辺で。