染井為人「震える天秤」

染井作品の三作目「震える天秤」読了。

フリーライターの俊藤律が、雑誌社から高齢者の交通事故についての記事の依頼を受け、福井県で起きた高齢者によるコンビニの店舗激突で店長が死亡した事故を取材することに。律は150ccのバイクを駆って東京から福井県の現場に直行。現場の状況を確認したうえで、事故関係者の取材を始める。警察では、当時店内にいた17歳のアルバイト少女や、運転していた老人、更には老人の村の人の証言などから、老人が認知症の気があり、アクセルとブレーキを踏み間違えたための事故として処理するような感触を受ける。しかし、律は関係者の取材をするうちに、亡くなった店長が8年前に飲酒運転で事故を起こし、少女が亡くなっていたこと。20歳未満だったことから3年で刑務所を仮出所し、その後父親がコンビニを開店させ、店長にしたこと、そして彼の評判がすこぶる悪いことを確認。加害者の老人の住む極めて閉鎖的な山間地の村に何か秘密が隠されているのではないかと疑い始め、ついには、被害者の店長が事故を起こして死亡した少女の母親がその村の出身で、娘が死亡後離婚し、村の実家に帰り、精神的な病に侵され続けたことを突き止める。村の村長はじめ、病に侵された母親のかつてのいい名づけや世話役が、何とか事実を隠そうとしていることを感じる。そしてついには、全貌が明らかになるというお話。

律は、村の村長たちから事実を明かさないように懇願され、悩んだ末に、明らかにしても誰も喜ばないことを悟り不問に付す。これは大正解とは私の感想。

一つの交通事故死から、不幸の連鎖が続き、その原因を作ったろくでもない店長の青年への復讐を描く物語だが、サスペンスとしては、老人が恐らくは身をなげうって復讐したのだろうとは、中盤で既にわかるものの、その裏に何が隠されているのかについては、なかなか予測できない点では、成功作かもしれない。

過疎の閉ざされた小さな村のみんなが、家族のように暮らすところが未だにあるのかは承知しませんが、横溝的な素材にも感じられました。

今日はこの辺で。