米澤穂信「ふたりの距離の概算」

米澤氏の折木奉太郎を主人公とする神山高校古典部シリーズ「ふたりの距離の概算」読了。

「やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければならなおことなら手短に」をモットーとする折木にしては、随分やらなくてもいいことを熱心に取り組むのがこのシリーズ。

本作は、4名の部員が2年生になり、新一年生の新規勧誘でなかなか小棒者が集まらないことから始まり、ようやく大日向友子が仮入部し、2か月後に退部してしまう理由について、部長の千反田が自分のせいではないかと悩んでいるのを見かねて、折木が退部の真相を;神山高校の一大行事である20キロマラソンの最中に部員からの事情聴取や、大日向本人からの聴取で、貧相を突き止めるという作品。大日向本人に千反田の悩みを正直に話して、聞き出せば苦もない作業と思われるのだが、何故か折木は当事者以外の人間からの聴取から始めて、最後に千反田、そして大方折木の推測が固まったところで、大日向に確認作業的な聴取を行うという回りくどい方法で攻めていく。これこそ「やらなければならないことは手短に」に反するように思われるのですが、小説ですから良しとすべきか。

米澤氏のこのシリーズは、折木が聴く「言葉」を記憶しておいて、その言葉から真相に近づく方法がとられるのですが、普通はそんなに深く記憶にとどめない言葉を、不明事項に当てはめていくという作業が多くあり、専門の刑事でもなかなかできない芸当。その意味で、折木奉太郎の行く末は名探偵しかないのではないかと思えてきます。

退部の真相は、千反田が大日向の携帯をいじっていたことではなく、大日向の中学時代からの友人との秘密を千反田に知られてしまうことへの恐怖であったのだが、退部理由としてはおかしな理由と思えたのですが。

今日はこの辺で。