伊兼源太郎「巨悪」

横山秀夫調の硬派サスペンス作家、伊兼源太郎「巨悪」読了。一週間ほど前に読んだ伊兼作品「金庫番の娘」の姉妹編のような作品ながら、登場人物は与党実力者の馬場と、特捜部長の鎌形、美人検事の髙品が出てくるぐらいで、その他は一新された人たち。

東京地検特捜部VS政官財の巨悪の戦いを描く420ページの巨編ながら、中澤検事と城島捜査員(検察事務官)という二人の幼馴染の友情も描く構成。

2018年の書下ろし作品なので、最近あった自民党議員の顔写真入りの団扇や香典などの、政治家から選挙民への贈答行為と同じような、本作では名前入りにタオルの贈答があったとの告発があり、東京地検特捜部が動くことに。美人の誉れ高い髙品検事を主任として、中澤検事、中澤の親友でもある城島捜査員などが捜査を開始する。証拠読みの中で、与党の西崎議員の帳簿から和菓子の領収書が頻繁に出てくることを城島が気付き、これを端緒に大きな贈収賄事件に捜査が進展していく。捜査の途中で政治家の秘書を取調途中で秘書の自殺があり、更には東日本大震災復興予算がらみの企業と政治団体の会長、事務局長も謎の死を遂げる事件も発生。復興予算が不正に支給され、それが裏政治献金になって政治家に還流するという巨悪の構図が、ワシダ運輸という会社の専務の口から中澤が証言を受けることで、巨悪にせまろうとしていく。更には、かつて中澤の妹が何者かに殺された事件についても、今後明かされていくであろう、一筋に明かりを残した形で終了する。

あくまでフィクションではあるが、政官財がこぞって震災復興資金の支出処を探し出し、それを消化せんがために、見積もりなど無関係に高額で発注し、それが元請け・下請けに限らずバラマキとして批判された除染作業の予算消化を思い出す。除染に限らず、復興予算が、全く関係のない事業にも使われ、それがまかり通ってしまった現実があることを思うと、この物語は決してフィクションで片づけられない内容を含んでいることに気づく。福一原発事故に伴い各地の原発の工事予算が膨らんだが、関西電力の、立地自治体助役が絡んだ不祥事もその中の一つで、電力会社の役員・社員に還流していたお金も財の分野では発覚した。

結局力のある所には金が集まるという日本のシステムが生んだ悲しむべき事象であるが、本作の最終章では、東京地検特捜部の大いなる役割が謳歌される描写があるのは、どうも解せない。実は特捜部こそ前例踏襲などの障壁に自らを貶め、肝心のモリ・カケ・サクラなどの疑惑に何ら突っ込むことができなかったのである。2018年当時は既にモリ・カケは問題になっていた時期のはず。巨悪を逃しているのは特捜部自身であり、特捜部の膿を出すことが巨悪をなくすことの早道でもあると思う次第。以上は私に私憤でした。

今日はこの辺で。