下村敦史「失踪者」

下村氏は「生還者」でも雪山登山を扱った作品を書いていますが、雪山登山作品第二弾の「失踪者」読了。

主人公は、本書の語り部となる山岳カメラマンの真山道弘だが、もう一人の重要な主役は、真山の親友であり、最高のクライマーである樋口友一。樋口は孤高のクライマーであり、「失踪者」としての大きな役割を担う。

真山と樋口の出会いは、大学対抗の冬山登山で、真山に装備品を樋口が貸したことから始まる。樋口は既に確かな登山技術を持っていたが、孤高がゆえに友人がないような男。その樋口に近づいて真山は無二の親友かつ登山のパートナーとなり、二人はK2登頂の計画を立て、一層親密となり訓練を重ねていく。本作は時代が前後して真山が語り部となって進行するのであるが、最初の場面は真山が10年前に遭難した樋口の遺体を探しに行き、そこで樋口の遺体を発見。その遺体は本来10年前の風貌のままのはずが、年を取っていたことから、樋口が10年前には遭難していなかったことが分かる。真山がその謎を追う形で話が進展していく。

真山は登山用品の販売部門に就職し、樋口はアルバイトを掛け持ちして、頻繁に逢って計画を練り、訓練を重ねるのであるが、真山の会社が傾き、配属替えがあったため、K2挑戦の断念を告げざるを得なくなり、二人の関係も薄れてしまう。その後、樋口は単独でK2制覇に成功するが、あまり話題にもならず、クライマーとしての活躍がなくなるのであった。本作のもう一人の重要な登場人物が、榊知輝という若いクライマー。8000メートル級の14座すべてを短期間に征服することを目標にする男だが、ここに登場するのが山岳カメラマンとなった樋口。そして何故か樋口はいずれの登山でも途中で高山病を発生させ、榊の単独登頂となる。この辺で、読者は榊ではなく樋口が代わって登頂したのではないかと想像するのではないか。その点はどんでん返しもなく、その通りになるのだが、他に落ちは考えられないのでよしとしましょう。

樋口は10年前の滑落時は、自分の技術で生き延び、その間、谷本勇一の名前で高峰に上っていたことを真山は突き止め、谷本の足跡を求めて、自らも山岳カメラマンとして生きていくことになる。

本作は、冬山登山という、生命にかかわる究極の中で、友情の大切さと、功名心の危うさを描いているところに主題がある。樋口友一というクライマーの生き様は、決して功名心を持たず、最後まで友情を大切にした男の物語である。

冬山登山の用語がたくさん出てきて、皆覚えることはできそうもないので、その辺の描写はスキップして読んだのですが、話の展開が面白く、4月14日から17日までの3泊4日の旅行中の電車の中で読み終えることができた素晴らしい作品でありました。

今日はこの辺で。