吉田修一「国宝]

吉田修一朝日新聞に連載した小説「国宝」上巻青春篇読了。

九州長崎のやくざ一家に生まれた喜久雄が、地元やくざの抗争で殺された父親の仇を取り損ね、大阪に出て歌舞伎の名跡、花井半二郎の弟子となり、半二郎の実施の俊介よりも才能があるとして、半二郎を受け継ぐ歌舞伎役者となり、前途洋々と見えた役者人生ながら、先代の突然の病気と死で、その後は歌舞伎界の大御所たちに冷遇され、苦節の時代を過ごすまでを描く青春篇。吉田修一は「パークライフ」で芥川賞を獲得するものの、その後は主に大衆文学中心の作品を発表しているが、本作は「悪人」以来の秀作と言われるが、エンタメとして、非常に楽しめる作品。芸能界とやくざ社会の深い結びつきを描き、たまにスケープゴード的にやくざ社会との関係が暴露され、芸能界から去る人も実際にはいるものの、やはり両者は相通じる関係を感じさせる描写である。これが悪いか否かは、何とも言えないのが、実はこの社会の常識なのでは、とも思い知らされる。とにかく登場人物が多彩な顔ぶれで、後編に向けては、一度出奔して姿を消していた俊介が10年ぶりに姿を現し、「国宝」の意味をこれから解いていく後編が楽しみである。

「国宝 下 花道篇」

吉田修一の「国宝」下巻読了。タイトルの「国宝」は最終の第20章で到達される下巻。歌舞伎に真骨をささげる三代目花井半二郎こと立花喜久雄と、二代目の嫡男にもかかわらず半二郎の名跡を告げなかったものの、見事に復活した花井半弥こと大垣俊介の友情と、芸を磨く切磋琢磨が、個性的なわき役陣の動きを交えて描かれます。二代目死後、鶴若という女形の長老に預けられたものの、冷遇され目が出ない喜久雄に対して、俊介は10年間の出奔をものともせず、再び頭角を現す。喜久雄も芸だけは必死に己を磨くことを心掛け、ついには俊介との共演が実現し、二人の黄金時代が始まる。しかし、好事摩多しで、俊介は片足切断、ついには両足切断の悪夢が襲う。それでも最後まで自分の芸に徹し早逝。喜久雄は最大のライバル兼親友を亡くし、気落ちするのだが、それでも芸に没頭し、ついには「国宝」=重要無形文化財人間国宝)をつかむのだが、彼の芸はそんなことを通り越していくのであった。

約700頁の長編ながら、歌舞伎の世界に浸れる良作でありました。

今日はこの辺で。