奥田英朗「罪の轍」

奥田英朗の600Pのサスペンス巨編、「罪の轍」読了。はじめの方を読んでいて、読んだことがあるとの既視感があり、自分のブログを見たのですが、書評がなく、長編過ぎて途中で読むのを止めたのではないかと思い、今回は辛抱強く最後まで読みました。

時は東京オリンピック前年の1963年。北海道礼文島から話が始まります。そこに住む宇野寛治という20歳の青年が主人公。彼は周りから馬鹿と呼ばれ、誰からも相手にされないような青年。少年時代から空き巣の癖があり、少年刑務所にも入っていた過去があり、泥棒することへの罪悪感がないような青年。そんな彼が、親切にしてくれたと思った島の男から騙され、死ぬ思いまでして何とか東京にたどり着き、空き巣を働いたことから警察に追われ、更には重大犯罪を積み重ねていく。彼を追う警察、彼をかくまう人たち。そんな人間模様が描かれる中、彼の悲しい生い立ちが、彼を犯罪者にしてしまう。

彼の犯した犯罪は小学生の芳夫君誘拐事件。これは、当時の大事件であった吉展ちゃん事件をモチーフにしていると思われ、吉展ちゃん事件の犯人も、貧困の中で育った小原保。誘拐事件発生場所も台東区という下町で、身代金も50万円で、誘拐された子供の遺体が見つかったのもお寺でほぼほぼ同じ。

警察の実況見分の立ち合い時に逃走して北海道に向かうという展開は、若干無理がありますが、子供時代に継父から当たり屋をさせられるという不幸な境遇が、彼を一種の精神障碍者にして、それがもとで意識障害を起こすことが重大犯罪に繋がってしまうという筋書きながら、私が期待したのは、本当は別の犯人がいるという展開でした。残念ながら、奥田先生はそこまでの筋書きは考えなかったようです。

本作品の評価は分かれるところですが、私としては、600P近い紙数をとる必要があるのかという疑問があります。ただし、次の展開がどうなるのかというサスペンスの醍醐味もあり、かつ奥田先生の読みやすい文体にも助けられ、楽しく読み終えることができました。

今日はこの辺で。