中山七里「ヒポクラテスの悔恨」

浦和医科大学法医学部の光崎教授、助手のアメリカ人女性キャシー、女性助教の真琴、そして埼玉県警捜査一課の古手川刑事が活躍するヒポクラテスシリーズの最新作「ヒポクラテスの悔恨」読了。遺体解剖にあっては、神の手を持つと言われる光崎教授が、法医学に関するテレビ番組に出演し、日本の法医学の現状を「死亡原因不明遺体であっても解剖できないのは予算=お金の不足が最大の原因」とぶっきらぼうに発言したことから、各種苦情が殺到し、その中に「絶対に原因がわからない殺人をする」という脅迫めいた挑戦状がマスコミに届く。そのため、県警は簡単に事故処理的に扱う案件についても慎重に扱うことになり、5件の死体について古手川や真琴さんが属の反対を押し切ってまで何とか解剖にこぎつけ、死因を光崎教授の解剖で解明するというのが本作品。

「老人の声」は、夏の高温で知られる熊谷市の住宅であった老人の死。普通であればあっさりと老衰で処理するはずだが、挑戦状のおかげで古手川が調査することに。息子夫婦が解剖を必死になって拒否することから疑問を持った古手川が真琴さんの協力もあって何とか解剖にこぎつけ、熱中症と判明。この案件では殺人犯はおらず、電気の容量不足でエアコンが切れたのが原因でした。

「異邦人の声」は、外国人技能実習生をたくさん受け入れている川口の鋳物工場で、ベトナム人実習生が突然死。死因は肝臓がんの破裂と簡単に診断されるが、疑問を持った古手川が粘って司法解剖へ。外傷はないものの、内臓への衝撃を受けた痕跡がありそれが死因と判明。やったのは、自分たちの仕事が外国人実習生に奪われかねないと危惧した日本人のベテラン職人社員だった。

「息子の声」は、30代半ばにして定職に就かずバイクに乗っている男が、秩父の山道のカーブを曲がり切れず交通事故で死亡。交通事故なので、秩父署の交通課が担当し、これも簡単に交通事故として処理しようとするが、挑戦状の事故かもしれないということで、これまた古手川刑事が活躍。両親は早急に仮想を訴えるが、古手川は自らがバイクを運転した実験を敢行。その結果事故後の死体の位置がおかしいという感触を得て司法解剖へ。結果は肝臓に毒物があり、かつ両親には多額の借金、むすこに5,000万円の保険金がかかっていることも判明。両親による息子殺しが明らかになる。

「妊婦の声」は、西川口のフィリピンパブに勤めるフィリピン人ホステスが、街頭で倒れ死亡。川口署は熱中症と判断して処理しようとしたが、古手川刑事が真琴さんに協力要請。真琴さんは出血の多さから別の死因を直観。両名が踏ん張って解剖にこぎつけ、妊娠中絶罪が下人と判明。フィリピンパブの店長が御用となり、一件落着。

ここまでは、挑戦状を出した殺人予告者は出ておらず、最終話へ。

「子供の声」は、鵜生後5日の赤ちゃんが突然死。生まれたばかりの子供を解剖などさせないと、両親が強硬に反対。特に父親は同じ浦和医大産婦人科教授。だが、ここでも古手川さんと真琴さんの活躍で何とか事件性を見出し、解剖の結果窒息死と判明。ここでいよいよ挑戦状を出した犯人がご登場となり、あっけなく逮捕。

最終話の犯人は、父親えある産婦人科教授があまりにも強硬に解剖を反対することから、犯人は父親に関係する人間、話にも出てくる小柴さんというナースと教授が関係があり、嫉妬でナースが窒息死させたかと想像したのですが、私の推理は見事はずれとなりました。

ヒポクラテスシリーズは、古手川刑事と光崎教授の個性が光り、話も面白いので、次回作に期待したい。

今日はこの辺で。