木村元彦「社長・溝畑宏の天国と地獄」

ノンフィクションライター木村元彦氏が、東大を出て自治官僚になり、大分県に出向中に、W杯日韓大会を大分に招致し、プロサッカーチーム「大分トリニータ」を誕生させた破天荒の男、溝畑宏の大分時代の天国と地獄を描いた「社長・溝畑宏の天国と地獄」読了。

昨今、東大出身のキャリア官僚志望者が激減している傾向が顕著。政治主導の掛け声の下、官僚の力が相対的あるいは絶対的に下がる中では当然の風潮で、国会などを見ていても、政治家に忖度する姿は哀れを極める。しかし、30年前はまだ溝畑のような破天荒な官僚がいたのかと、痛感させる著作。普通の官僚であれば、地方に短期間出向して減点なく中央本省に戻り、次官レースを闘い、次官になれないとわかれば政治家への転身や天下りしていくのがキャリア官僚のコース。しかし、溝畑宏という男は、そんな普通の役人では収まらず、大分に骨を埋めるつもりで、W杯招致とプロサッカーチームの立ち上げに没頭し、夢を実現しようとしたロマンがあったのでしょう。しかし、大分トリニータは資金繰りに窮し、大きな債務超過となり、存続の危機を迎える。結果、溝畑は責任を取って当時社長であった地位を辞任する。木村氏は、どちらかというと溝畑に好意的な立場で本書を書いているが、W杯招致もプロサッカーチームも、自分がやり遂げたんだという大いなる自慢話を講演会などで言い放つことに対して、地元大分の政・官・財界人は面白くない思いもあったのでしょう。こうした人間に対してはバッシングが起こるのも当然。しかも数値管理もせずに倒産状態にしてしまった責任も大いにあることは事実。

溝畑という男は、自分がやらなければ何も動かないという強い自負がありすぎる人間で、傍から見ると独裁者であり、一方では人に仕事を任せられないタイプなのかもしれない。そこに彼の失敗があったのではないか。

J1・20チーム、J2・22チームがありますが、大分程ではないにしても、どのチームも財政的には苦しいと聞く。したがって大口スポンサーを見つけることは、チームを維持するうえで死活問題だが、地元に大企業がない地方のチームは特に運営が厳しいと予想されます。そんな中で、優勝できるようなチームにするためにいかに選手を補強していくかは、やはりお金次第。溝畑が見つけてきた大口スポンサーは、皆オーナー会社のオーナーが溝畑の人間性や夢に惹かれお金を出してきたという経緯があるが、どこも長続きしない、何らかの弱点のある会社ばかり。しかし、その営業力はすさまじい迫力と忍耐力。社長を首になった後、民主党政権観光庁長官に抜擢され、現在は大阪観光局長を務める溝畑。なんだかんだ言って、棄てる神あれば拾う神もあるキャリア官僚の世界なのでしょうか。

今日はこの辺で。