奥田英朗「コロナと潜水服」

久しぶりの奥田作品「コロナと潜水服」読了。五つの作品からなる短編集で、いつもながらそのユーモアとペーソスに感嘆。いずれの作品も、心霊的な人間が出てきて、物語が進行していくスタイル。

「海の家」は、奥田さん本人に似た作家が主人公。妻の浮気が発覚し、しばらく別居しようと家を出た作家の男が、葉山のかつての豪邸だったような家を借りる。そこには幼い子供が住み着いていて、二人は同居するような形が続く。その子は、かつてこの家に住んでいた一家の子供で7歳の時に破傷風で亡くなった子。そして、この作家は海岸で不良少年たちに殺されそうになったのを救ってくれるのでした。

ファイトクラブ」は、リストラを拒否して工場の警備に回された中年男5人が、かつて会社にボクシング部があったため残っていた装具をつけて遊んでいたところに、謎の老人が現れて、彼らのボクシングを教える。彼らはすっかりボクシングのとりこになり腕を上げていくが、コーチの老人の素性はわからずじまい。ある時工場に泥棒が入って、犯人たちと堂々と格闘し、捕まえることができるのだが、その結果コーチが誰であったかを初めて知ることに。

「占い師」は、有名プロ野球選手の恋人を自任するフリーアナウンサー、彼が実力を発揮すればするほど自分から離れて行ってしまうことが気がかりで、占い師に助言を求めることに。彼女が行った占い師は、彼氏の調子を左右してしまうような超能力を使うのだが、それに一喜一憂する自分が嫌になって、初めて自立していく。

表題作でもある「コロナと潜水服」は、テレワークで家で在宅勤務する男が、自分の子供がコロナを見分ける能力があることを感づき、子供の言動から自分がコロナに感染したことを信じ、感染予防に妻が買ってきた潜水服で外出することに。ついには本当に感染してしまうのであるが、子供が近づいてきたことで治ったことを悟る。コロナ禍の中で感染対策を皮肉っぽく小説にしたもので、奥田節全開。

最後の作品は、ほろっとさせる「パンダに乗って」。5作品の中では最もすぐれた作品に感じました。中年男が買ってあこがれたイタリア車を買い求めて新潟へ。早速ついていたカーナビが誘導する通りに走らせると、この車のかつての持ち主の足跡をたどることに。25歳で早世した若者の思い出の場所を巡っていき、その若者がみんなに愛されていたことを知り、車を買ったことに無上の喜びが語られます。

今日はこの辺で。