NHK取材班・北博昭共著「戦場の軍 法会議日本兵はなぜ処刑されたのか」

昨日「公文書の危機」を読み終わり、ブログ掲載しましたが、今日読了した標記著作も、大いに公文書と関係がある作品。

NHKスペシャルで2012年8月14日、50分の番組として放映された番組ですが、その番組のもととなった取材過程を本にした作品ですが、まず第一に感じたのは、たかが50分の作品ながら、ととてもない時間と労力が費やされてできた番組であることです。メディアが調査報道を避けている一つの理由として、費用対効果の問題があるといわれますが、NHKだからこそ作れる番組であり、歴史的に非常に貴重な番組であり、著作でもあります。しかし、本来であれば、終戦時に陸海軍が貴重な文書を「焚書」しなければ、もっと真実に簡単に迫れたはずであるという、正に公文書を為政者がわが身を守るために消滅させたという歴史的な罪があるということです。

そして著作の内容での印象は、公文書がなく、実際に軍法会議に携わった、あるいは軍隊に所属して、仲間が処刑されていったことを知る人間のほとんどが鬼籍に入るか、あるいは高齢であるという壁があったなかで、貴重な証言を見つけ出し、当時の軍隊の不条理を訴えたことの重要性です。

大日本憲法下であっても、憲法にのっとった刑法や民放があり、それに則った裁判が行われた訳ですが、軍隊にあってはすべてが上意下達に世界。上巻の言うことは逆らうこともできず、更には戦時においては敵軍人を殺すことは許される行為でもあり、軍法に基づく裁判が行われざるを得ない世界である。ただし、これを認めるにしても、許されることと許されないことは当然に存在するのであって、終戦まじかの、米軍に追い詰められた状況下、食糧はなく、末端兵士は飢えないために食料調達のために隊から離れ、帰還が遅くなったことから、逃亡とみなされ軍法会議も経ないで処刑されるなどの理不尽な行為もあったとのこと。その結果、処刑された兵士は「逃亡犯により処刑」という烙印を押され、遺族年金も支給されず、遺族は戦後もいわれなき差別を受ける事態も散見されたことには、腹立ちを覚える。戦場では不思議と上官優先に食料も配分されたこともあったようで、軍法会議のために陸海軍に配置された「法務官」と呼ばれる戦場の法の番人たちの多くは無事に帰還し、戦後の司法中枢で生き延び、中には最高裁長官や検事総長になった人もいるのである。

本書に登場する法務官、沖源三郎氏と馬場東作氏も戦後法務省役人や弁護士となっている。この二人については、軍法会議の理不尽さについて晩年に貴重な証言していることで、まだ許されるのであるが、法の番人の役割を果たさないまま戦場から悠々と帰り、その後口を閉ざしたまま司法の世界で生きてきた姿は、今の日本司法の体たらくの源流でもある気がしてならない。

生き証人が少ない中、NHK取材班は北博昭氏という貴重な研究者と出会ったことは最大の幸運であった。北氏は軍法会議に関しての研究をやった数少ない方で、NHKという大マスコミの調査報道の立役者であり、彼がいなければこれだけの番組や著作は作れなかったはずである。

それにしても、フィリピンのジャングルまで逃げて、人肉食までして生きなければならないほど飢えた状況で、敵に降伏もできないような軍隊が許されるのだろうか。そして、英語が喋れるから米軍に情報を漏らしかねないとして処刑されてしまう理不尽が許されるものなのか。BC級戦犯として裁かれ処刑された軍人も多かったのであるが、証拠を隠滅して生き延びた軍人が戦後日本の中枢を担ってしまった日本という国の不幸は、いまだに続いているような気がするのである。

今日はこの辺で。