寺澤有「本当にワルイのは警察」~国家権力の知られざる裏の顔~

寺澤氏は、警察などの国家権力と戦うノンフィクション作家。本書「本当にワルイのは警察」は、寺澤氏が取材してきた警察権力の汚い裏の姿を映し出します。警察は庶民の味方と思っている方も多いかと思いますが、警察官個々人に本当に悪い人はもともとはいないのでしょうが、警察という組織に入り込んでしまうと、組織防衛や階級制度、古い慣習にからめとられて、そこから理性や誠意を失ってしまう姿がまざまざと見えてきます。本書では語られませんが、重大事件の犯人が挙がらないときによく発生する冤罪。これもまさしく、組織の力が証拠を捏造してまで(袴田事件など)、あるいは都合の悪い証拠を裁判に出さないなどの行為に及んでしまうことに現れます。結局は、たとえ冤罪であっても、組織の示した方向性に逆らうことができない、一個人としての警察官の理性や誠意を消し去ってしまうところに問題がある。

本書では、まず全国の警察で行われている「裏金作り」の悪習を実例を挙げて訴えますが、警察は決して正面から組織犯罪として認めません。私も警備関係の仕事をしていたことがあり、警察と少しだけおつきあいしたことがありますが、平気でビール券や選別などを受け取りますし、防犯協会主催の宴会にも会費なしで堂々と出席していたことを思い出します。本当は、お金に関して最も襟を正さなければいけない役所なのですが、実は最もルーズな役所です。架空の領収書などを作って裏金づくりをするのは、検察も全く同じですが、組織から声をあげても、逆に抹殺されるところが恐ろしいところでもあります。とにかく逮捕権があるのは、大きな権力であり、暴力でもあります。

警察と暴力団の関係については、映画やテレビの話ではなく、現実の問題でもあります。最も顕著なのが拳銃の押収ノルマ。日本はアメリカのような拳銃無法地帯ではなく、幸いにも拳銃所持はほとんどの国民はできません。やはり一番不法に追っているのは暴力団関係者。警察庁、警視庁、道府県警察本部からノルマを課されて、暴力団との取引で拳銃を押収しなければならないシステムが堂々とまかり通っているとは、言葉もありません。暴力団側からすれば、警察に提供する拳銃を用意するために拳銃を外国などから購入し、それが警察署の手柄となるなど、正に鼬ごっこ。そんなことで日本にある拳銃が減ると思っているのか。

本書では触れられていませんが、警察というところはやたらに表彰が多いところ。たとえ冤罪であっても犯人を上げれば表彰、そんな表彰がいくつも重なって名刑事となり、階級も上がっていくようなシステムは極めて危険。

警察と天下りの問題もまた、社会をゆがめる悪弊である。本書で例に上がった東電への警察官の天下り。反原発活動家の個人情報が警察に筒抜けになるシステムがここでも出来上がっています。

そして一番の問題は警察とマスコミの関係。記者クラブという大手メディアの特権に甘えて、あるいは縛られて、警察の悪事を追及できないシステムも、強固に出来上がっています。北海道警の裏金問題を追及した北海道新聞が、最後は白旗を上げた事例でわかる通り、マスメディアは決して警察に逆らえない構図が出来上がっている恐ろしさ。

「法に触れるような悪いことをしなければいいではないか」という方もいますが、法に触れなくても警察は組織防衛のためならだれでも逮捕して地獄に突き落とす権力を持っていることを、我々一般市民は認識しなければならないことを痛感しました。

今日はこの辺で。