黒木亮「法服の王国」

英国在住で日本の小説を書いている黒木亮「法服の王国」読了。上下巻、800ページの大作ながら、ここのところ、裁判所・裁判官・裁判制度などのノンフィクションを読み続けているので、内容に入り込むことができました。

本作はフィクション・ノンフィクションを織り交ぜておりますが、ほぼほぼノンフィクションに近い内容で、戦後の裁判所や裁判官の問題点を語っています。

主人公は村木健吾裁判官と津崎守裁判官、助演に妹尾猛史弁護士、弓削晃太郎(再就職歴は最高裁長官)の配置。彼らの名前は仮名ですが、裁判歴などは実際にあった事件。その他政界の人が出てきますが、実名であり、ノンフィクションそのもの。

村木と津崎は、いずれも苦学して東大法学部卒の裁判官ながら、村木は青法協に入って支部回り、津崎は弓削晃太郎(後に最高裁長官となる矢口洪一)に引っ張られ、順調に出世していく司法官僚。決して政治色はないものの、時の政権によって左翼分子とみなされ、不当な人事評価を受けるものの、決して信念を失わずに裁判の現場で生きる村木のような裁判官に巡り合った被告は幸せ者。津崎も決して悪人ではないものの、組織の論理に縛られざるを得ない役どころ。

ノンフィクションとして出てくるテーマは、青法協へのブルー・パージ、長沼ナイキ訴訟の違憲判決と平賀書簡問題、裁判官再任拒否事件、伊方原発志賀原発訴訟、住基ネット訴訟等々、実際の訴訟に村木や津崎が携わる形で語られます。そうした裁判で、住民側に立った判決を出す村木や彼の仲間たち。実際の事件であるため、村木は石塚章夫現弁護士と井戸謙一現弁護士を想定した方ではないかと想像。

とにかく、日本の裁判所の問題点、例えば地裁で住民が勝っても高裁・最高裁では負けるというような構図や司法試験改革に伴う裁判官の劣化など、読みやすくまとめていて、大変参考になりました。

今日はこの辺で。