大西連「絶望しないための貧困学」

貧困対策に取り組むNPO法人「自立生活センター・もやい」の理事長である大西連さんの「絶望しないための貧困学」読了。

大西さんは麻布中学高等学校卒ということで、おそらくは秀才で、普通に勉強していれば一流の大学に入って、一流の会社に入社して、それなりの地位について・・・・といった人生は送ったのでしょうが、なぜか高校生の時に不登校になり、あるきっかけから路上生活者と一夜を共にしたことから、貧困対策に打ち込む人生になった。まだ若い彼にとってこの生き方がよかったか否かは、今のところわかりませんが、こうした方がいるからこそ、助かっている方が数多くいることは確か。そんな彼の貧困を抱えて暮らす人たちとの出会いと、主にその人たちを生活保護に結び付ける手伝いをした経験が綴られます。湯浅誠氏やもやいの前理事長の稲葉剛氏なども本書に出てきますが、彼らや、彼らと同じように貧困対策に取り組む人たちの行動には頭が下がります。

いわゆるホームレスの人たちの、ホームレスになった理由にはいろいろあるでしょうが、おそらく好んでなった人はいないでしょう。そんな彼らを、世間はどうしても「怠け者」のような目で見てしまう傾向があり、そんなホームレスの人になぜ税金が原資の生活保護費を支給しなければならないのかという厳しい論調がはびこります。しかし、誰でも一歩間違えれば、ホームレスになってしまうことは、今回のコロナ禍でも理解できるのではないでしょうか。昨年、老後資金が年金のほかに2,000万円必要という予測が出て大騒ぎになりましたが、今回の騒ぎで、いかに接客業で働く方々が厳しい状況に置かれているかも証明されました。このまま御客が戻らなければ、大量の失業者が出る可能性があります。接客業の方の生活基盤はそれほど盤石ではなく、どちらかと言うと、収入が途絶えると住むところもなくなってしまうケースが非常に多いようです。そんな苦境に陥った方たちの唯一の道がせいかつほごになり、命の綱となります。

確かに役所の窓口は、不正受給を防ぐための防御線があり、これもまた理解はできるのですが、高齢の方には肉体労働は難しい、精神的な障害がある方には接客業務は難しいなど、労働とのマッチングがより小さくなるのは止むを得ません。

巻末の大西さんと漫画家の柏木ハルコさんの対談の中で、大西さんの言葉が印象的です。すなわち、どうしても貧困に陥っている人を下に見る傾向を排除し、同じ高さの目線で話しかけることの大切さです。例えば、ホームレスの人を施設に入れたが、本人から引っ越ししたいとの申し出があったとき、「みんな我慢してるからあなたも我慢して」と答えると、そこで会話は終わってしまう。そうではなく「何か嫌なことがあったの」、「同部屋の人と何かあったの」と理由を尋ねれば、会話が続くと。

大西さんは稲葉剛さんの後任として、若くしてもやいの理事長につきましたが、理事長とはいっても役人が天下って理事長になるとは全く別で、おそらく彼の賃金などは低いのでしょう。本を書いて印税を稼げるようになれば別ですが、苦しい生活環境が想像されます。

彼の今後の仕事は、彼の後継者を作っていくことです。稲葉さんも大西さんがいたから理事長を譲ることができたと思います。

大西さんの今後の活動に期待します。

今日はこの辺で。