「自民党迂回献金システムの闇 日歯連事件の真相」

東京新聞取材班著「自民党迂回献金システムの闇 日歯連事件の真相」読了。

東京新聞中日新聞傘下にある新聞ながら、最近は望月衣塑子記者の活躍など、取材力にも定評がある新聞。その東京新聞取材班が日歯連事件を追ったノンフィクションで、本書の執筆に望月さんも加わっている。

日歯連事件」は、首相まで務めた橋本龍太郎氏の晩節を汚したと言われたことで記憶に残っていたが、これだけ派手な政治事件だったとは、本書を読むまで認識がなかった。

日本歯科医師会日本歯科医師連盟日歯連)。似て非なるものなので、ここで整理しておこう。

日本歯科医師会は、正式には公益社日本歯科医師会といい、政治活動はできないが、医師会が政治団体を作ることは可能で、それが日歯連。この日歯連歯科医師会の意を受けて、歯科医師にかかわる待遇や法律に関して政治活動をすることは許されるという仕組み。

2000年の日本歯科医師会の選挙で会長となった臼田貞夫氏が、日歯連の会長も兼ねることになり、以後精力的な政治活動を展開することになる。その活動とは、要は自民党の有力政治家に金を配って、歯科医師会の望む法律なり政策を実現すること。日歯連は、毎年全国の歯科医師から総額20億円以上の年会費を集め、この潤沢な資金で歯科医療にかかわる有力な与党政治家や、歯科医師会の職域参議院議員の選挙資金を賄うシステム。

いわゆる日歯連1億円闇献金事件は、当時の最大派閥であった橋本派橋本龍太郎、野中弘務、青木幹雄の実力者3名を臼田会長が料亭に招待し、その場で1億円の小切手を提供したという疑惑。事件化して、実際に1億円の授受があったことは間違いないが、同席した政治家3人は、薄らとぼけて、記憶にない、同席していないと思うなど、責任逃れに終始。この1億円が政治資金収支報告書に記載されなかったことから、誰が記載しないことを決めたのかということが焦点になり、後日の幹部会で村岡兼三氏が主体的に決めたとの会計責任者の証言から、同席した3人ではなく、村岡氏が起訴されたという事件。村岡氏は全くの冤罪と主張し、一審では無罪となったものの、控訴審・上告審では有罪。未だに無罪を主張している。勿論臼田会長の証言で3人が1億円授受の現場にいたことは確実のはずであり、それでも政権中枢には踏み込めない検察の弱さが明るみに出た。

そして、本書の主題である迂回献金問題。迂回献金の言葉は知っていたが、内容は知らなかったので大変参考になった。

自民党には「国民政治協会」(国政協)という便利な政治資金管理団体があり、日歯連山崎拓氏に、ある事案の協力を依頼するため3,000万円献金する場合、とりあえず国政協に3,000万円寄付し、国政協が山崎氏に3,000万円寄付したとすれば、「ある事案への協力」は消え去ってしまう。国政協は、あくまで山崎氏には自民党の都合で寄付したことになり、いわば色のない、マネーロンダリングが完成する。こんなシステムがある限り、職務権限のある大臣なり副大臣日歯連が協力依頼するにしても国政協経由では、職務権限に対する寄付は証明できないのである。これでは全くの骨抜き。小泉政権時代、小泉首相は立法化を指示したようだが、自民党内の反発でできなかったとのこと。

それにしても、当時の日歯連の臼田会長は派手なことをしたものです。私腹を肥やした可能性も否定できませんが、年間20億円以上の資金があれば、相当な金が配られます。現在進行形の河合夫妻事件の場合も、1.5億円という破格の選挙資金があったらばこその現金配り。

有り余るような金があると、碌なことがない証左になりました。

本書には厚生族を中心にたくさんの政治家の実名が出てきますが、政治家で逮捕されたのは歯科医出身の吉田幸弘衆議院議員と村岡兼三元衆議院議員だけ。大本は無傷に終わっている。

今日はこの辺で。