青木理「国策捜査」

青木理国策捜査 暴走する特捜検察と餌食にされた人たち」読了。

本書は、表題通り特捜検察の餌食にされた方13名が、「日本の司法を考える会」というワークショップにゲストとして出席され、いかに餌食にされ、いかに戦ったか、どこに特捜検察や日本の刑事司法制度に問題があるかを突き詰めた作品。

  1. 村上正邦氏:かつて自民党参議院議員の実力者であった村上氏が、KSD事件という詐欺事件に巻き込まれ、メディアが大悪人のイメージを作り上げた方。私自身もそれをうのみにしたほうだが、実際は小沢一郎事件に近いようなでっち上げの可能性もあるのには驚き。検察での屈辱的な取り調べを語る。
  2. 三井環氏:大阪高検公安部長時に、検察の裏金問題を告発しようとして突然逮捕された方。まさに検察の暗部を隠すための検察による事件のでっち上げ事件。自己防衛のためなら何でもやるという検察の恐ろしさ。
  3. 鈴木宗男氏:いわずと知れた国後島ムネオハウスの主人公。当時の国会では辻本清美氏が「疑惑の総合商社」と非難したことが思い出される。この時の報道もすごかったが、北方領土問題との絡みで、正に国策捜査の犠牲になった方。
  4. 村岡兼造氏:私から見ると一番かわいそうな方で、マスコミもそれほど悪人扱いはしなかった記憶があります。いわゆる橋本派への日歯連からの1億円の政治献金にまつわる問題で、全く当事者でないにもかかわらず、既に議員を引退していることから犠牲者にされた気がします。
  5. 上杉光弘氏:この方は初めて聞く名前。村岡氏と同じく日歯連献金問題の関係者。当時の橋本派の幹部で、1億円の処理を相談した幹部会に出席していた方ですが、村岡氏が取りまとめたという事実はない旨証言したものの、村岡氏は有罪に。裁判所は何を証拠に村岡氏を有罪としたのか。
  6. 尾崎光郎氏:議員が大臣の秘書官を務めてコンサルタント会社を立ち上げ公共工事の口利きをした容疑で特捜に逮捕された方。裁判ではヤメ検弁護士の作戦に乗って調書にサインしたが実刑判決を食らい、控訴審で否認に転じる。ヤメ検はろくな奴がいない典型。
  7. 安田安弘氏:ご存じ死刑廃止論者の弁護士で、世論で極悪人とされたような人を弁護している方。特にオウム真理教の浅原の弁護をしたことで有名。相当に検察から恨まれているようで、完全なでっち上げ事件で長期間拘留され、裁判でも有罪。日本の刑事司法はやっぱり腐っています。
  8. 田中森一氏:かつては特捜の敏腕検事で、特捜の暗部に嫌気がさして早々と弁護士になり、「闇社会の守護神」とまで言われることになる弁護士。特捜のエースとも呼ばれるほどですから、相当厳しく取り調べし、ストーリー通りに調書を取ったのでしょう。しかし、闇社会の守護神になった彼を悪人に仕立て上げるのは検察にとって簡単だったでしょう。
  9. 西山太吉氏:いわずと知れた元毎日新聞記者で、外務省極秘文書漏洩で検察に狙われました。これはまさに政治と検察が結託した事件。すなわち、問題の本質は沖縄返還にあたっての日米密約にあったのに、外務省の女性事務員と情を通じて秘密文書を手に入れたことが本質に入れ替わってしまった事件。未だに政府は密約を否定しているという怪。
  10. 中山信一氏:鹿児島県志布志で起きた警察による選挙違反事件捏造事件の被害者。全く架空の選挙違反事案を作り上げ、地域住民を人質司法で自白調書を取り付けた壮大なるでっち上げ事件。中山氏は県議選に出馬して当選した方で、395日間も拘束された。動いたお金が200万円弱、あとは焼酎などの飲食物。こんな小さな事件でなぜそこまでやるかという疑念。端緒はまだわかっていないとのことだが、おそらくは中山氏が立候補したことで落選した候補の悪意の通報。今が旬の広島の河合事件を想起します。こちらは1.5億円の現金で特捜が動くのは当然ですが。
  11. 神林広恵氏:「噂の真相」という反権力スキャンダル告発雑誌がありましたが、その編集者だった神林氏が、記事で名誉を棄損されたことで特捜の餌食となった事件。「噂の真相」が当時検察をターゲットにしていたことから、全く別件で特捜が捜査したという、極めて悪質な操作。三井環事件と同じく、検察の自己防衛をも子的としたもので、逆らう奴はどんな手段を使ってでも捕まえてやるという検察の魂胆が見え見え。
  12. 細野祐二氏:大手監査法人公認会計士だった細野氏が担当する会社の株価操作にかかわる事件に加担したとして特捜の捜査を受け、有罪確定している。細野氏は全く共謀しておらず、その証拠もないにもかかわらず、一審時の共謀者の長所が維持されてしまった事件。人質司法による偽調書絶対主義がまかり通ている。
  13. 佐藤優氏:鈴木宗男事件のとばっちりを受け、当時駐ロシア大使館で辣腕をふるっていた佐藤氏は「外務省のラスプーチン」といわれるまでの存在になっていたが、それがあだとなり特捜の餌食になる。拘留期間はなんと512日間に及ぶ。今では著作業や講演で大忙しの身となり、外務省にいるよりも良かったかもしれませんが、それにしても検察は良く事件をでっちあげられるものです。
  14. 秋山賢三氏:番外で元裁判官の方。冤罪事件に積極的に参加し、袴田事件なども弁護。裁判所の機能不全を強く訴える。

 

青木氏のまとめ

  1. 刑事司法でのチェック機能が働いていない

・警察を検察がチェックできない⇒検察を裁判所がチェックできない

・逮捕状請求却下率0.04%・拘留請求却下率0.26%・無罪率0.1% ⇒ 自動販売

・検察の拘留請求ほぼ100%⇒最大20日間の拘留、この間人質司法で厳しい取り調べ

・起訴により被告人=推定無罪で保釈の権利あるが、自白しなければ保釈を許可しない

⇒裁判所はノーチェック、人質司法の延長

・警察の「代用監獄」制度⇒警察の留置場に収容、その間に無理な取り調べ

・地裁の無罪率99.9%→高裁で0.1%の無罪の8割が逆転有罪

  1. 検察はストーリー通りの調書を取るのが大方針

・大きな事件や注目事件では、幹部がストーリーを考え、それに沿った調書作成

・ストーリーから外れた調書は論外

・そこから齟齬が生まれても、検察・裁判所一体で有罪は覆らない

  1. メディアの惨状

・警察・検察のリーク情報を、何ら検証することなく垂れ流し世論の形成

・有罪が当たり前の世論ができ、それに沿って裁判官もノーチェックで有罪判決

・メディアにとって警察・検察という捜査機関は最大の情報源、批判はタブー

  1. サラリーマン化する裁判官・検察官・警察官

・裁判官は無罪判決を出すことには勇気が必要、自分の出世に影響

・検事は絶対有罪主義、無罪判決は大きな減点

 

検察庁法改正問題であれだけ世論が騒いだが、これまでの検察の悪行を知らない人が大多数でもある。検察改革も同時にやらなければとんでもないことになる。

 

以上のごとく、日本の刑事司法には大きな問題あるが、軌道修正は困難か。

現在進行中の広島の河合夫妻事件も、大量の検察情報がメディアに流れており、世論は有罪・議員辞職を望んでいると同時に、1.5億円の政治資金に関心が集まる。

いずれもなしとなれば、検察は完全に政治に屈服したことになるが、次期検事総長となる林真琴その手腕を期待したい。

今日はこの辺で。