三井環「ある検事の告発」

大阪地検元特捜部長、大坪弘道氏の「勾留百二十日」を読んだすぐ後に読んだのが、三井環著「ある検事の告発」

いずれの著書も、検察庁の組織暴力の犠牲となった検事が、検察の暗部を訴える著作。つくづく検察という組織の権力の横暴さを白日の下にするもので、「検察の独立性を棄損するな」と訴えた「#検察庁法改正案に抗議します」を全面的には支持できないことを認識する。

2008年、大阪地検の現役の公安部長であった三井環氏は、私憤と義憤から、検察の悪弊となっていた調査活動費の不正使用をただすため、実名で告発をする当日に検察に無理筋で逮捕され、実刑判決を受けるまでを振り返った著作。

本人が言うように、確かに脇が甘いところもあったことはあったのですが、普通では決して逮捕されるような事案ではなく、逮捕の意図はあくまで口封じのためであることは明らか。もし調査活動費の不正利用が日常的に行われたことが明らかになれば、検事総長はじめ検察幹部が総辞職しなければならない事態にもなりかねず、検察としては相当焦ったはずである。したがって、無理筋での逮捕となったことは明らか。

本書では、検査幹部経験者等の名前が相当出てきます。三井氏逮捕に絡み三井氏が告発していた加納駿亮氏の検事長人事を行うために、当時の原田検事総長松尾邦弘事務次官などが後藤田正晴氏にお伺いを立てた場面なども出てきます。松尾氏は後に検事総長になるのですが、先日の検察庁法改正案問題で、法務大臣に意見書を出したことでも有名になりました。あの松尾氏も、やはり調査活動費を不正利用していたかもしれません。

三井氏の脇の甘いところは、渡真利という反社勢力の人間と関わりを持ってしまったことです。逮捕と裁判の証拠はこの渡真利氏の証言だけ。200万円を渡真利に貸した代わりに30万円ぐらいの接待を受けたことは致命的でした。刑法的な問題ではなく、検事という立場で反社勢力と関わりを持つことは、素人目からは白い目で見られても仕方がありません。それにしても、贈賄側の渡真利の裁判と収賄側の三井氏の裁判を別々に行い、早々と渡真利の裁判で実刑判決が出て、その同じ裁判官が三井氏の裁判を担当するのはあまりにも公正性を欠く。三井氏側は別の裁判官をと訴えたのですが、これが認められず。贈賄を有罪と認めれば、収賄も成立するということであり、こんな汚いことをするのかと疑問に思います。

この三井事件で渡真利の調書を取ったのが当時大阪地検の検事であった大坪氏。この大坪氏が、検察のストーリー通りの調書を作り、これを証拠として裁判は1.5年の有罪判決となりました。

その後に発生したのが、大坪氏が特捜部長として指揮した郵便不正事件。三井氏に言わせれば、因果応報で大坪氏も検察の組織暴力に屈することになる。大坪氏の著作では、三井事件に触れることなく、自分が如何に被告人からも慕われていたかを強調していましたが、白々しいにもほどがあります。

結局、検察の調査活動費の不正利用に関しては、現在までだれも責任を取っている節がなく、今でも続いているのでしょう。大手マスコミは、記者クラブというぬるま湯につかって、この問題を取り上げようとしません。検察の怖さを知っているからなのか、情報が取れなくなることへの恐怖か。今の日本のメディアは、文春・新潮などの一部週刊誌の力がなければ、何も権力の不正を暴けない現状なのが、何とも歯がゆいところです。

それにしても、三井環氏の勇気には頭が下がります。自分を逆恨みして人事上の不利益を与えた加納駿亮氏への私憤が発端とはいえ、現役で告発を考えるとは、通常では考えられない行為。前川喜平氏が言うように、辞めたから自由にものが言えるが、現役では面従腹背がせいぜいと。

今日はこの辺で。

 

 

 

後藤田正晴への陳情:原田検事総長、宗像検事長松尾邦弘事務次官、古田佑紀(最高裁判事

大坪弘道:渡真利調書

加納駿亮

吉永検事総長

接見禁止は苦痛

収賄事件:同じ裁判官が別々に裁く~不公平

甲山事件時の主任検事(後検事長):逢坂貞夫、検事補(後次席検事):加納駿亮