石井妙子「女帝 小池百合子」

もうすぐ都知事選が告示されるタイミングで出版された「女帝 小池百合子」。著者はノンフィクションライターの石井妙子さん。3年半の歳月をかけて取材した渾身の一作と言えよう。

小池百合子が政界に進出して以来の日本の政治状況が如何に混乱していたか、そして彼女が如何に時の権力者、あるいは権力を握るであろう人をかぎ分け、すり寄っていったかが、手に取るようにわかる著作です。

小池百合子の人格形成における原点はどこにあるのか?本書では父親小池勇二郎氏に起因していると書かれているが、確かに父親もまた嘘とはったりで生きてきたような人物。それが相当娘にもコピーされたと思われる。

本書では、彼女が関西の名門私大である関西学院大学を辞めて、なぜエジプトに渡ったかの詳しい記述はないが、19歳で単身エジプトにわたり、カイロ大学入学(コネではあるが)をした事実は嘘偽りはなく、普通の女性ではなかなかできるものではなく、度胸は満点である。年上の女性とルームシェアし、勉強もぜずに現地の日本人のマスコット的存在になったことにも、咎めるべきところはないが、家からの仕送りもないような状態で、経済的にどうしていたのかは語られていない。結構立派なアパートに暮らしていたとのことで、家賃もそれなりに必要であったと思うのですが、生活費はどうしていたのか?観光ガイドをしていたような記述があるが、そうであれば立派なことではある。

そして、コネながら難関のカイロ大学に入学し、ろくに勉強もせず、アラビア語も十分に使いこなせないにもかかわらず4年で卒業したという嘘が、彼女の嘘の上塗りに出発点になったのか。

私もかつて、彼女がカイロ大学卒業というのを見て、そんなに難しい大学ではないと思っていたのですが、超名門とのこと。確かに日本人では極めて珍しい学歴を持つというのは、日本での活躍のPRにはなったはず。それを利用して、持ち前の上昇志向と切れ味鋭い言辞、回転の速い頭と女というのを武器にして、まずはテレビに進出し、やがては独特の嗅覚で、後に総理となる細川護煕に接近し、その後も小沢一郎小泉純一郎にかわいがられて環境大臣防衛大臣を経験。第二次安倍政権で干されたことから都知事に転身と、まさに日の当たるサクセスストーリーを歩んできた。その都度都度、マスコミを最大限に活用して自分を売り込み、時には誰でもわかるような嘘をついても、潰されることなく、上昇していく生き様は、なかなか真似のできるものではない。

最大のピンチは、都知事になって人気絶頂の頃、「希望の党」を立ち上げ、自ら総理を狙おうとしたものの、排除発言で急速に人気が衰え、今度の都知事選も盤石ではなかったはずが、降ってわいたコロナ禍。オリンピック延期が決まった早々、持ち前のテレビを使った発信力により、大盤振る舞いの支援策を打ち出したりして、知事選を意識した事前運動を展開。彼女には運も味方するようである。

本書では、学歴詐称のほか、数々の嘘を平気でついてきたこと、権力者にすり寄ってきたこと、弱者には目もくれず、あくまで自分本位なことなど、かなり厳しい論調が続く。権力者にすり寄ることは政治家にとっては本能のようなもので批判の対象にはならないが、弱者への気配りのなさや自分本位な考え、そして何よりも平気で嘘をつくような人間を都知事というポストにつけていいのかが、今回の都知事選で都民に問いかけられているのではないか。

少なくともカイロ大学の本当の卒業証明書を提示していただきたいものである。大学当局はちゃんと卒業したと言っているのですから(政治力で言わせている可能性も大きいのですが)。

今日はこの辺で。