ドキュメンタリー映画「アメリカン・エクスペリエンス マッシー事件」

ハワイはかつて王朝国家だったのですが、1898年にアメリカに併合され、以後は「ハオレ」と呼ばれる白人支配層が統治することになります。アメリカの差別主義については、ドキュメンタリー映画でさんざん見てきていますが、ハワイにおいても全く同じで、白人が現地人や移民を差別する体制が続きました。

このドキュメンタリーは、1931年に起きた人妻レイプ事件の顛末を描いています。

1930年代というと、日本が中国に進出し、太平洋においても日本海軍の勢力が増しつつあった時期。アメリカは日本の脅威への備えから、海軍を増強してゆきます。当時ハワイに住む海軍兵士は2万人程度で、大きな顔をしていた時期でした。

海軍兵トマス・マッシーの妻タリアがある夜、パーティーの帰りに一人で帰宅中に何者かにレイプされたと訴えたことが発端。証拠は何もなかったのですが、地元民の若者5人が容疑者としてでっち上げられ、取り調べを受けますが、証拠不十分で釈放されます。しかしこれで収まることはありませんでした。

タリアは電話を発明したグラハム・ベルの一族で、タリアの母親がグレースがハワイに乗り込んで、無理やり自供させようとして一人を誘拐し、誤って銃殺してしまいます。この事件でグレースとマッシーが起訴され、ハワイの陪審員は10年の懲役という、至極真っ当な審判を下し、ハワイの地元住民は正義が正されたと喜ぶのですが、検事や陪審員に嫌がらせや脅迫が殺到し、知事は懲役1時間に減刑してしまう体たらく。逆に高待遇で本土まで送り届けられ、まるで英雄扱い。

そもそもタリアは精神障害があり、レイプされた痕跡は何もなく、すべてが架空の話を作り上げた可能性が大きいのですが、結局差別が一人の若者の命を奪い、白人が罪を追うことはなかったという理不尽。

この事件は本国でも大きな話題となり、母グレースは事件の顛末を出版し、本は随分売れたそうです。アメリカの暗黒史の一つになってしまいました。

今日はこの辺で。