奥山俊宏「パラダイス文書」

朝日新聞編集委員で、パナマ文書パラダイス文書に分析・取材を朝日新聞を代表して取り組んだ奥山俊宏氏著「パラダイス文書」読了。

前半部分は調査報道に関する著者の経験を踏まえた所感、後半はパナマ文書パラダイス文書に取り組んだ内容について記述されている。

「調査報道」は今の日本のメディアでは衰退傾向にあると言われますが、ジャーナリストは、本来が自分で取材して掘り下げた記事を書くことで初めて価値が認められるものです。最近では、森友学園問題で亡くなった近畿財務局職員の赤木俊夫さんの手記公開にこぎつけ、今もこの問題の真相解明に取り組む相澤冬樹氏が調査報道の実践者として浮かびますが、こうした骨のあるジャーナリストが次第にいなくなり、日本特有の記者クラブに寄生して、警察や役所の言うことをただ垂れ流す記者とメディアが増えているのは残念なことです。例えば、前川喜平氏を貶めようとして役所から提供された情報を臆面もなく報道した読売新聞のような。

調査報道には、それに取り組むにあたっての端緒が必要なことは言うまでもありませんが、その多くは内部告発と言われます。そして、その内部告発を掘り下げて調査し、報道する価値があるかを見極めることが何よりも必要。そのためにジャーナリストは、常に問題意識を持った取材精神が必要になるでしょう。

さて、パナマ文書パラダイス文書は、いずれもタックスヘイブンと言われる租税回避地に企業をつくって、何とか本国の課税を逃れ、税率が低いか、あるいは課税されない国などで利益を計上し、税を逃れようとする法人や個人の情報を満載した内部告発文書。いずれも南ドイツ新聞に告発が寄せられ、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が全世界の報道機関に呼び掛けて分析・取材が進められたもの。そこには、各国の政治家や経済人などの名前が出てきて、一大騒動にもなりました。中にはこのために政府の要職を辞任した政治家もいます。本来国民に税金納付を呼びかける立場の人間が、個人的には税逃れをしたとなれば、例え法的には問題がなくても、倫理的には許されるものではありません。

税逃れと言えば、日本にもふるさと納税制度があります。私も最初はいい制度だなあと、何度か利用したことがありますが、高額納税者になればなるほどお得感のある制度。金額にかかわらず、2,000円を控除した金額がすべて非課税になり、かつ返礼品が付いてきます。最近やっと返礼率が30%未満まで減額されましたが、それでもお得感あり。菅官房長官総務大臣時代に進めた政策ということで、この政策を批判した官僚が、菅氏の意向で左遷されたことも報道されました。人事を握る人に逆らう人に対する見せしめでもあり、官僚の忖度を助長したとも言われています。

相澤冬樹氏が言っていましたが、とにかく調査報道にはお金と労力がかかるとのこと。NHKは財政豊かで、今でも「クローズアップ現代+」など、優れた調査報道がありますが、民放では少なくなりました。

何とか日本でも調査報道の文化をもっと活発にしてほしいものです。

今日はこの辺で。