相澤冬樹「安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由」

森友問題を再びクローズアップさせてくれた週刊文春記事を書いた相澤冬樹氏が、森友事件を追いかけた経緯や自身のNHKでの記者人生を赤裸々に描いた「安倍官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由」を読了。

東大法学部を出た、本来であればエリート社員として、NHKの幹部になっていてもおかしくないような経歴なのですが、31年間のNHK時代を含めて、生涯一記者を貫く人生を歩んでいる相澤氏の記者魂が随所に語られます。亡くなられた近畿財務局の赤木氏の奥様に会う前に書かれた著作であり、その奥様との対面場面は出てきませんが、ほぼほぼ森友問題の核心をつかんでいる著述も随所に見られます。

森友問題の本質は、①8億円の値引きがなぜ行われたのか②大阪府の学校認可がなぜ行われようとしたのか、の2点だと彼は見ています。ここから派生したのが決裁文書改ざん問題。このいずれもいまだ解明されていない理不尽が罷り通っています。相澤氏はこの真相を追いかけたいがために、記者をおろされ、考査部に異動を命じられた瞬間から転職を考えた潔さ。まさに記者魂丸出しです。森友問題を追いかけていた相澤氏が理不尽にも記者をおろされたことを知って、赤木氏の奥様が連絡をくれたというのは既に知れ渡っています。

さて、この事件は大阪地検特捜部が立件すべく調査を開始し、証拠をかなり集め、財務省の職員からも聴取したのですが、背任(値引き)も文書改竄も不起訴。続く検察審査会で不起訴不当となったものの、再捜査でも不起訴。誰も刑事責任を取っていません。財務省の処分は受けているものの、キャリア官僚はみな栄転している始末。これに対して籠池夫妻だけが詐欺で有罪判決を受けています。こうした決着に、相澤氏は当然納得がいかないので、今後も調査報道を進める覚悟です。

本書で相澤氏が告白している中で印象に残ったのが、ある事件以降15年間昇給昇格していないという事実。その事件とは、デスク時代に部下の女性記者の長時間労働に気付かず、労災事故があり、管理職として責任を取らされたという内容。彼はこの女性記者に対して、大きな責任を感じて生きていたこともうかがえます。

さて、赤木氏の手記が公表され、奥様は提訴しましたが、政府は新事実がないと言って再調査しないと言っています。本書でも、ほとんど相澤氏は赤木氏の手記に沿った筋書きを既にしています。そのネタ元は大阪地検のようです。最近言われていることですが、大阪地検が押収した証拠が密かに政府にわたっていた可能性があるのではないか。したがって、本書でも、東京・法務省は不起訴情報を流し、大阪地検がそれに若干の抵抗を示しているような書き方をしています。当時の法務省事務次官は話題の黒川東京高検検事長法務省からの圧力が働いた可能性が否定できません。ここに安倍政権の守護神の力が働いていたとすれば、まさに由々しき事態と言わざるを得ません。

今日はこの辺で。