鎌田慧「反骨のジャーナリスト」

鎌田慧著「反骨のジャーナリスト」を読む。ジャーナリストには、権力を厳しく監視して、不正があれば厳しく追及し、世間に広く知らせる役割があるのですが、今の大手メディアが陥っているのが「権力への迎合」とも言うべき、由々しき事態。現場サイドがジャーナリストの本筋に従って取材し、信念を持って放送したNHKの郵政のかんぽ保険の営業の実態。これが気に入らないと怒った総務省天下りの郵政副社長がNHK経営委員会を脅し、それに乗ってしまったNHK経営委員会がNHK会長に中止し、すんなり謝る幹部。この経緯の中には、全く権力監視を行おうとしないメディアの経営幹部の姿勢が見て取れます。NHKについては、前川喜平元次官の取材をしながら、結局放映もしなかったような前歴もあります。表現の自由を侵した「表現の不自由展」問題に対しても、メディアの報道はいまいち権力に対して弱腰です。こんな日本の今の状況を頭に入れて読んだ今作は、大きな衝撃でもありました。

鎌田氏が取り上げるのは、明治から昭和にかけて、権力に脅かされながらも、自分の意思を貫いた10名のジャーナリスト。

1.明治中期、政府の発行停止処分を30回以上も受けても新聞を発行し続けた陸羯南

2.明治中期以降、日本の底辺にいる庶民の存在をルポルタージュした横山源之助

3.女性の権利を主張し、政府と闘った平塚らいてう

4.日露戦争に反対し、その後いくつかの反政権を訴え、関東大震災時に権力に虐殺された大杉栄

5.「滑稽新聞」で何度も発禁や禁錮処分を受けながら、権力を面白おかしく批判した宮武外骨

6.乃木典希殉死を批判したり、反軍反戦を訴え続けた桐生悠々

7.戦争に向かいつつある日本を憂い、平和を願ってゾルゲ事件連座して絞首刑となった尾崎秀実

8.ナチスの危うさを見抜き、日本のナチス接近反対を訴え、戦後は釜石市長となり公害とも戦った鈴木東民

9.戦時中の新聞による戦争協力の半生から朝日新聞を辞め、故郷秋田で新聞創刊し権力監視をしたむのたけじ

10.生涯一新聞記者として、徹底した取材により権力に向き合った斎藤茂男

以上の10名の反骨が語られます。彼らの中には国会の選挙に出馬し、いずれも落選したことから、世間的には「変わり者」扱いされたかもしれませんが、このような、権力に迎合しない、自分の命や生活にも優先してジャーナリストとしての矜持を貫く姿があったことが想像されます。著者の買い被りが若干あるにしても、現代のジャーナリストには見習ってほしい一面があるのではないでしょうか。

今日はこの辺で。