市川寛「検事失格」

検事を12年間勤め、現在は弁護士となっている市川寛著「検事失格」読了。

ダイバージョン、訳すと犯罪者をできるだけ社会復帰できるような手助けを司法行為を通じて行うこと。これを目指して検事に任官した市川氏が、現実の検察という海の中で、もがき苦しみ、最後は溺れてしまう自叙伝的作品。

冤罪を作り出す源は警察・検察の捜査であり、かつ裁判官の検察妄信にありますが、市川氏が経験したのもやはり、上司の強引な筋読みによる捜査に抵抗できずに、ついには精神的に疲れ果て、沈没してしまう姿が語られます。上司の言うことには逆らえない軍隊式の組織形態が司法組織には歴然とあり、関係者はみんなが何らかの矛盾を感じながらも、いつの間にかそれに染まっていってしまう恐ろしさ。彼らにとっては自分や先輩、組織のメンツを保つためには、一人の民間人の人生など全く目に入らないのでしょう。これが日本の司法の現実ということがよく理解できる著作です。

ただし、例えば佐賀市農協背任事件の佐賀地検の事績や所長の見解はどうなのか。市川氏はうつ病を病んで、おかしなことを言っている、程度にしか思っていないかもしれません。ぜひとも彼らの見解も聞きたいものですが、彼らにはお咎めがなく、見解を聞く機会もなく残念ではあります。

今日はこの辺で。